第七回 1/21・22 陶喆(David Tao)台北コンサートレポ
 
今や台湾を代表するミュージシャンとなった、陶喆。そんな彼の2度目となるアジアツアー「就是愛你・音樂驚奇之旅」の台北公演が、2006年1月21日・22日の2日間にわたって台北小巨蛋(日本語では台北アリーナ)で行われました。彼がマスコミから注目を浴びるずっと以前から日本語ファンサイトを作り応援し続けてきた筆者としては、これは見逃すわけには行きません。というわけで2DAYS共に行って参りました。

思い起こせば3年前の11月、今回と全く同じ場所(当時は小巨蛋ではなく台北市立体育場)で初のアジアツアー「DAVID TAO SOUL POWER演唱會」台北公演が行われ、初めて彼の生のステージを見て感動のあまり涙したものでした。その頃の会場は小巨蛋のような屋根は無く、小雨の振るなか前もって配布されたレインコートを着て、寒さに震えながら声援を送りました。
今回の台北コンサは小巨蛋の柿(こけら)落とし公演争いに巻き込まれるという波乱のスタートだったのですが、結局張學友(ジャッキー・チュン)主演のミュージカル「雪狼湖」にその座を奪われ“台湾の男性歌手で初の公演を開くアーティスト”というかたちになりました。本人よりも周りのスタッフが柿落としという肩書きに拘っているようにも見えましたが、当初発表の2005年末から少し遅れて2006年1月の開催となったのです。

コンサ前、スタッフやファンに不安がよぎりました。というのも、それまでに小巨蛋でコンサを開いたほとんどのイベントで、電圧不足などによる停電があったのです。今回そのことに最もひやひやしていたのは、スタッフ以上に陶喆本人だったはずです。曲中に流れるショートフィルムのなかにも停電発生を皮肉った演出があり会場の笑いを誘いましたが、無事停電することなくコンサは進んでいきました。

1日目には陶喆の父・陶大偉(ちなみに英名は息子と同じDavid Tao)と母・王復蓉が、2日目には陶喆の音楽プロデューサー・王治平やタレントの“黒人”こと陳建州、そして名曲「天天」など数多くの作詞を手がける娃娃などが来ていましたが、今回もまたゲストミュージシャンは無く、3時間以上ぶっ続けでひとりで仕切る姿は圧巻でした。

今回は幸運にも特1区(特に2日目はセンター最前列、つまりは陶喆の目の前)で見ることができたので、ステージ上の細やかな演出にも注目することができました。前回のツアー以上に日本からのファンも多く詰めかけ、また残念ながら参加できずに涙を呑んだファンも多いと聞いているので、そんな方々にも情景を想像して頂けるように、記憶をたどりながらできるだけ詳しく書きたいと思います(間違いがあればご指摘ください)。結論から言うと2日間とも素晴らしいものでしたが、特に2日目は完璧なまでのパフォーマンスを披露、1曲目から最高のノリでした。2日間とも曲目は全く同じでしたが、演出面では細かな違いもいくつか見られました。それぞれの曲について詳しく書いていきます。1日目と2日目に違いがある場合には分けて記します(以下、文章が長くなるのを避けるため文体を変えます)。

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1. 找自己
メインスクリーンに映し出された、ヘリコプターを操縦する陶喆。そんなヘリが墜落してバンドメンバーがジャングルを彷徨うようなスタイルで登場し、最後にステージの真上から陶喆が舞い降りてくる演出。いきなりテンション全開のシャウト、特に2日目はこの1曲目からファン総立ちに。

2. 今天沒回家
二胡の旋律に乗せながらの素晴らしい編曲。2日目は相変わらず観客総立ち状態。歌詞の至る部分でアドリブを織り交ぜ、オリジナルとはまた違った楽曲に。特に途中で全体が「STOP!」で止まってバラード調に変化し、陶喆が憂鬱そうに「今天我沒回家…」と呟くように歌うアレンジが秀逸。

3. 飛機場的10:30
実質上のデビュー曲なだけあって、その思い入れをひとしきり語ったあとの歌唱。今回もまた前回ツアー時と同じコンサートアレンジで熱唱。

4. 愛我還是他
台北コンサ開催が伝えられた直後に陶パパが「実は息子のこの曲をひそかに練習しているのだけれど、息子はわしを絶対ステージに上げたがらない様子で困っている」と嘆いていた、いわく付きの曲(笑)。やはり陶パパの出番は無かったものの、安定したヴォーカルでファンを魅了したのはいうまでもない。

5. 月亮代表誰的心
3年前の台北公演では、この曲の時に観客の頭上を中身の光る巨大な空気風船がフワフワ漂うという演出があったが、風船に穴が開いたのかいつの間にか消滅して無くなっていたのを思い出してしまった。その教訓なのだろうか、今回はそんな“へっぽこ月亮(ユエリャン)”は無かったが、その代わりスクリーンに映し出された満月の前で女性が二胡を奏で厳かに始まる編曲が素晴らしい。

6. 討厭紅樓夢
陶喆ワールド全開の代表曲だけに一気に盛り上がる。アレンジは前回ツアーとそれほど変わらなかったが、明らかに完成度が上がっていた。

7. Runaway
1日目でファンが総立ちになったのはこの曲から。陶喆はこの曲を歌う前のMCでは必ず“夢”について語るが、今回も例外ではなかった。

8. 沙灘~夜來香~望春風~沙灘
恒例のメドレーシリーズ。前回ツアーの「沙灘~OVER THE RAINBOW」への流れも素晴らしかったが、今回はなんとジャズヴァージョンの夜來香に変化し、夜來香の後半部分ではシャンソンっぽく遊び心いっぱいに歌い上げた(陶喆の2ndアルバムに収録されているオリジナルを聴いた人なら分かると思うが、途中のアナログレコードっぽく聴こえる部分のような感じに)。

9. 流沙~Angel
今回のコンサートツアーの音楽総監でもあり作曲・編曲家兼キーボードの呉慶隆が奏でる優しいピアニカの音色で始まる。全曲の沙灘を受けての静かなパフォーマンス。

10. Susan說
今回のコンサで最もパフォーマンスに趣向を凝らしたのがこの曲と言えるのではないだろうか。陶喆は小さなドラをバチで叩きながら、京劇風の独特な声色で声高らかに始まる。この演出にはきっと京劇役者の母へのリスペクトが込められているに違いない(ちなみにアルバム「太平盛世」収録のこの曲を初めて聴いた母のコメントは“好噁心[気持ち悪い]”だったらしい・苦笑)。笛などの伝統楽器奏者を交えてのアレンジはまさに元となった京劇「蘇三起解」の真骨頂と言うべきだろう。

11. 小鎮姑娘
この曲の頭には必ずあの汽笛の音が聞こえる。2ndアルバム収録のこの曲は、相変わらず根強い人気だ。

12. 寂寞的季節
陶喆の弾き語り。その横で舞うひとりの女性。しかし彼女の周りにあった家財道具が次々と外に運ばれていき、何も無くなった部屋を見て、最後は彼女自身もトランクを手に部屋を去る。さりげない演出だが、まさに哀愁漂うこの曲のイメージにぴったり。

13. 鬼
MVのように陶喆の足元にはわらわらと群がる亡霊たちが。のはずだが、映像効果無しの生身の人間だと演出効果が出にくいのかなぁ…などと思ってみたり。しかしロック魂全開!

14. 黑色柳丁
前曲のロックの流れをそのままこの曲へ。なかなかナイスな曲順だ。前回のツアーでは陶喆が柳丁の中から出てくるという演出だったが、今回はシンプルに。

15. 孫子兵法
再び二胡と笛の奏者が登場。さすがに女子十二学坊との共演とまではいかなかったが、オリジナルの世界観をそのままコンサートでも表現。

16. 天天
2日目に来ていた、この曲の作詞者・娃娃へ捧げる歌となった。アレンジは2003 Revised Version。彼はほんとこの編曲が好きなんだなぁと実感。2nd収録のオリジナルヴァージョンでのパフォーマンスはきっと一生無いだろう。

17. 普通朋友~二十二~無緣
陶喆・ギター・パーカッション・コーラスの4人が横一列に椅子に座って登場。こうなるともう次の曲は想像がつく…「普通朋友」だ。始めのギターソロは陶喆自ら弾く。相変わらず素晴らしいギターテクだ。そのままの流れで「二十二」へ。曲調的にこの2曲はかなり似ているのかも。そして「無緣」の前半部分はコーラスのDavid Tanがリードをとり、陶喆がコーラスに。なかなか新鮮なヴォーカルアレンジだ。シンガポール華人のこのDavid Tanという男、歌だけでなくギターも弾く。なかなか多才だ。

18. 宮保雞丁
鶏の鳴き声が聴こえたらもうこの曲しかない。どのコンサでも必ず披露するといってもいいほどの、陶喆お気に入りの1曲。

19. My Anata
前曲に続きおちゃらけソング系の二段重ね!遊び人に扮した陶喆が2人の女性と共に踊る姿は必見!さぞ練習したんだろう。そして最後はバイオリニストにフラれるというオチまでつける演出。

20. Dear God
ショートフィルム(下記参照)に続く1曲。キリスト教徒の彼らしい選曲だ。

21. 洋楽メドレーシリーズ
歌の前に陶喆はこう言った。「これから歌う曲は、5年級(ここでは西暦1960年代生まれの人を指す)ならおそらくどこかで聴いたことはあるだろう。6年級(1970年代生まれ)や7年級(1980年代生まれ)であればまさに知っている人も多く盛り上がれるだろう。8年級(1990年代生まれ)には馴染みが薄いかもしれないが、それでもこの音楽を聴いて何か感じるものがきっとあるはずだ。」それはまさに彼の音楽の原点ともいうべき、アメリカを中心としたロックの世界。随所にわざと声真似を織り交ぜ楽しくはしゃぐ彼のパフォーマンスは、まさに彼自身が青春時代へ回帰したかのようだった。ちなみに筆者の両サイドでコンサを楽しんでいた友人(共に6年級)は、もうシャウトしっぱなし(笑)。曲目は以下のとおり。

・Queen & David Bowie「Under Pressure」
・Prince「Kiss」
・Gun N' Roses「Sweet Child o' Mine」
・Toto「Rosannas」
・Tears For Fears「Shout」
・Chicago「Hard To Say I 'm Sorry」
・Spandau Ballet「True」
・Wham!「Careless Whisper」
・Paul Young「Everytime You Go Away」
・Eurythmics「Sweet Dreams」
・Billy Joel「Uptown Girl」

22. 愛,很簡單
2日目の公演で、陶喆は1度だけピアノを弾き間違えた。その後落ち着いてすぐ立て直したのだが、音を間違えた瞬間、観客は間違いに気付きながらも、彼のこれまでのあまりにも完璧なパフォーマンスに魅了され、誰一人としてざわつくファンは居なかった。最後の「I Love You 一直在這裡Babe…」の部分を、左右ウイング・2階席・センターの客席ブロックごとに歌わせた。筆者が驚いたのは遠方の2階席から届く声と、ステージ上での演奏のタイムラグが非常に少ないこと。一般的に距離が離れていると声と演奏がかなりズレて聴こえるのだが、センター最前列に居た筆者が聴いてもほとんどズレを感じなかった。小巨蛋の設計や音響設備の素晴らしさに感動。

-----ENCORE-----
23. Sula 與 Lampa 的寓言
まさかこの曲が出てくるとは思わなかった。ちなみに隣に居た某氏いわく、Lampaとは台湾語で男性に2つ付いているアレを指すらしい(笑)。

24. 王八蛋
台北公演ではかなりシャウトしたかったのだろうか、前曲に続きまたまたロック全開。筆者も力いっぱいシャウト…疲れた。

25. 就是愛你
今回のツアーのテーマソングだ。これを歌わずしてコンサートは終われない。2日目はこの曲が終わっても更にアンコールがあるか!?という雰囲気だったが、なんだか中途半端な空気で終わってしまったが…それでも、2日目の最後だけ、陶喆が再び登場してファンに挨拶をしていたのが印象的だった。

[MC]

今回もいろんなことを語った陶喆だったが、なかでも注目すべきは日本のファンへの思い。前半で「みんなどこから来たの?香港?シンガポール?韓国?」とお決まりのコメントだったが、1日目では「日本のファンは?」と言うべきところを「東京のファンは?」と間違えるハプニング。客席を良く見ると“LOVE TOKYO”と書いたプレートを持った日本人ファンが居た。毒を吐くようだが、地方出身者の筆者としては、例え東京出身の日本人ファンであっても“東京”などと書いたプレートは持って立ってほしくない。言っておくが“東京=日本”ではない。こんな書き方をするから陶喆も間違えたんじゃないか。“日本”もしくは“JAPAN”と書くのが常識だ。一地域を限定して書くことに何の意味があるのか、と問いたい。話は逸れたが、注目すべきは2日目。トークのなかで「ありがたいことに今では日本人ファンもたくさん居るようだ。台湾で中国語を学び私の音楽を愛してくれている人もいれば、全く中国語を知らなくても私の音楽を聴いてくれている人も居ると聞く。でもたとえ中国語が分からなくても、きっとハートで伝わるよね」と、珍しく日本人ファンへ向けたコメントが。「中国語を話す日本人ファンってもしかしてぼくのこと?」などと一瞬冗談半分に自惚れてしまったが、日本人ファンの存在がしっかり認知されていることに素直にうれしかった。

[ショートフィルム]

今回はオープニングや曲間に計3つのショートフィルムが流れた。さすがはひそかに映画監督を目指す陶喆(笑)!特にユーモアのセンスが際立っていたような気はしたが、決してそれだけには留まらなかった。

オープニングでは、ヘリを操縦する陶喆のアニメーション。墜落しそうになり利かなくなった操縦桿を必死に動かそうとする陶喆の姿は爆笑ものだった。

次は本番直前で緊張する陶喆の左右にそれぞれ天使と悪魔の陶喆が座り、本人にささやきかける。「もし途中で停電したらどうしよう…」「今回は一部の曲でスクリーンに歌詞の字幕をつけるけど、1号機2号機…うまく動かなかったら…」「コンサチケットの売れ行きは上々だと聞いていたが、当日もしひとりしか客が来なかったら…」そして途中でなぜか柳丁(オレンジ)を思い出し、頭の中に柳丁を両手いっぱいに抱えて陶喆めがけて笑顔で走ってくる太った女の子(実は陶喆のマネージャー・笑)を想像して憂鬱になったり…かなり笑いのツボを意識して作られていた。

そして「Dear God」の前には、なにやらメッセージ性のありそうなアニメーションが。あらすじはざっとこんな感じだ――ある少年は、いつも1本の大きな木のそばで遊ぶのが好きだった。あるとき少年は木に「お金がたくさんほしいなぁ」とつぶやくと木は「少年よ、私はお金をあげることはできないけど、でもぼくの木に生っているリンゴを売ればきっとお金になるよ」と返す。木の好意を受け取った少年はリンゴを売って財を成した。やがて大人になった少年は再びその木のもとへやってきて「ぼくは大人になった。今度はいろんなところへ旅したい」と言うと木は「少年よ、私にはもう何もあげるものがない。でも私の身体を切って舟を作り、好きなところへ航海に出るといい」と返す。早速少年はその木で舟を作り、あらゆるところへ旅に出た。やがて年老いた少年は再び木のもとを訪れる。「私はいろんな国を旅した。しかしもう疲れた。どこか、やすらげる場所がほしい」すると木は「少年よ、私ももうこんなに年老いた。もう何も君にあげるものがない。しかしまだ私には切り株が残っている。ここにもたれ掛かってゆっくりやすらぐといい」と返す。少年は「あちこちを旅したがここへほとんど何も持って帰ることができなかった。でもこの種だけは大切に持ち帰った。ぜひ木の傍に植えたい」と話しかけるが、しかしそのとき既に木は息絶えていた。少年の植えた種はやがて成長し実を結び新しい命を育んでいった――

このフィルムが流れ終えたあと陶喆は「このフィルムの意図するところは、皆さんにはピンとこないかもしれない。我々人間は、何でもかんでもただ消費するだけではだめだ。必ず何かを与えなければならない。天然資源ひとつを例にとってもそうだ。もっと地球に何か与えてあげるようなことができなければならない。それをこのアニメーションで訴えたかったのだ」と静かに語る。彼のコンサートは、ただパフォーマンスをするだけの場ではない。必ずファンにメッセージを投げかけ、そして共に考える。普通のアーティストには真似できない演出である。

[あとがき]

3時間以上にも及ぶステージをゲスト無しでやり遂げたのは、素晴らしいの一言に尽きる。機材トラブルや大きなハプニングもなく、大成功のうちに2日間の公演を終えた。ぜひ台北公演(特に2日目)のDVD化を望みたいところだ。

今回は残念ながら両日ともTENSION(陶喆プロデュースの5人組ヴォーカルグループ)のメンバーの姿を見かけることは無かったが、今後いつかまた彼らとの共演にも期待したい。

この後マレーシア・香港公演も行われる予定だ。今回残念ながら参加できなかったファンの皆様も、機会があればぜひ!長文にお付き合い頂き感謝。
06/01/29
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